イヌ同士のケンカ

人だって、時々口ゲンカをしたり、つい手を出してしまうことがあります。 でも、相手に深刻な怪我を負わせることはほとんどありません。 またカッとなっても、極端な暴力にまで走ることはありません。 実はイヌ同士のケンカもほとんど同じなのです。


よくイヌの行動について非現実的な期待をよせる人がいます。自分が誰とでも仲良くできないにもかかわらず、イヌには完璧に行儀よく、すべてのイヌと仲良くすることを望むのです。考えてみてください。そんなことを犬に求めるのは無理があります。

イヌ同士も気が合わず、口論し、ケンカすることもありますが、相手にひどい危害を加えることは本当にまれです。したがって、ケンカをしても相手にケガをさせないように育て、しつけるのが妥当なのです。
イヌ社会の常識を教えるには、

  • 子イヌの時期に他の犬と十分に社会化させて友好的に育て、ケンカするよりも遊ぶことを好むようにします。
  • 青年期に社会化が後退しやすいのを予防します。
  • 最も大切なのは、子イヌに咬みつきの抑制を教えて、成犬になってケンカをしても危害を加えないようにすることです。

社会化

幼い子イヌを社会化させるのは簡単で楽しいことです。リードを付けないパピークラスでレッスンを受け、あちこちの犬がいる場所に連れて行き、少なくとも1日1回は散歩することです。
子イヌを社会化させるには、定期的に知らないイヌに会わせる必要があります。

発達過程で社会化が後退するのを予防する

イヌ―特に雄イヌ―にとって若年期はとてもストレスの多い時期です。なぜなら年上のイヌ(特に雄イヌ)から繰り返し攻撃を受けるからです。この儀式的な攻撃は正常な行動で、青年期のイヌが一人前になるまでは、年上のイヌが「自分の地位」をわきまえさせようとして行うものです。

生後 5~18 ヶ月の青年期になると、テストステロンの分泌量が極端に高くなることが原因で、年上のイヌが若年期のイヌに攻撃をしかけるのです。
さらに若年期のイヌが落ち着いて、成犬の攻撃から受けるストレスを乗り越えられるようにするには、頻繁に他のイヌと出会い、遊んで、良い経験をしている必要があります。

ところが多くのイヌは、生後約 6 ヶ月~8 ヶ月になると、小さな争いを何度か起こしたことを理由に、他のイヌとの社会化の機会を絶たれてしまうのです。これは特に小型犬と大型犬に見られます。

小型犬の飼い主は、自分のイヌを他のイヌと遊ばせるとケガをしてしまうと心配して抱き上げて遊ばせないようにすることが多く、大型犬の飼い主は、自分のイヌが他のイヌをケガさせないようにとリードをきつく持って拘束します。

こうしたことが原因で、多くのイヌは発達の大切な時期に、見知らぬイヌとの交流をめったにさせてもらえません。ここで悪循環が生まれます。イヌの社会化が遅れ、咬みつきを抑制することを学ぶ機会がなくなり、ケンカやケガをする可能性が高くなり、結果として以前よりさらに社会化が難しくなります。

子イヌが若年期の間に非社会的あるいは反社会的にならないようにするには、継続的に見知らぬイヌと出会う必要があります。そして、子イヌが見知らぬイヌと会ったり、挨拶したり、遊んだときには必ず褒めてやります。

子イヌが他のイヌと友好的に接しているときは、絶対に当然のこととして見過ごさないで、必ずあなたが喜んでいるということを伝えるようにしてください。

青年期から成犬の間は、他のイヌと出会って友好的に接することができたら、必ず声で褒めておやつをあげるのです。

咬みつきの抑制

ほとんどのイヌ、とくに雄イヌは若年期に入るとケンカに巻き込まれることが多くなります。
しかし、子イヌの時期に咬みつきの抑制を十分に身につけ、相手に危害を加えずに仲直りする方法を学んでいたら、万一ケンカになっても、相手にケガをさせるようなことにはなりません。ところが、子イヌの頃に咬みつきの抑制を学んでいなければ、相手に大ケガをさせることもあります。

イヌのケンカはやかましくて恐ろしいため、飼い主は「いつもケンカばっかりして、他のイヌを殺そうとして!」と決めつけますが、大事なのは、本当に危険なイヌかどうかを客観的に見極めることです。

具体的には、イヌがケンカした回数と咬みついた回数を数えます。飼い主に、「そのイヌは何回ケンカしたことがあるの?」「相手に深刻なケガをさせて、動物病院で治療をすることになったのは何回あるの?」と聞いてみてください。本当は危険ではないのに、「危険な犬」というレッテルを貼られているだけかもしれません。

なぜなら、そのイヌが本気で相手を殺そうとしていたのなら、何度も試みたわりには毎回失敗していることになり、つじつまが合わないからです。それどころか、何回もケンカしていながら一度もケガをさせていないということは、明らかに相手を殺す気はなかったことの証明です。(もし真剣に他のイヌを傷つける気だったら、一回のケンカで与える危害は恐ろしくひどいものになるはずです)

結論として、このイヌは社会化不足で他のイヌとはうまく交流できないのは確かですが、咬む力は十分にコントロールできるイヌなのです。

このようなケンカっ早いけれど、相手をケガさせるほど咬むことはないイヌについては、そのような犬を受け入れてくれるしつけ教室への参加をお勧めします。しつけ教室では、飼い主は管理された環境で安全にイヌをコントロールする術を学べますし、イヌも徐々に自信を身につけ落ち着くようになり、いつか他のイヌと遊んで社会化されることも期待できます。

一方、他のイヌに危害を加えるイヌについては、常識的な対応をして、想定できる危険を避けるしかありません。イヌには常時リードを付け、公共の場に出るときは必ず口輪を付けます。他のイヌを傷つけると分かっているイヌを、他のイヌと接触させるのは、間違っていますし、無責任で、将来的には危険でもあります。

したがって、その犬が危険かどうかというのは、咬みつきの抑制ができているかどうか、がポイントなのです。問題は、イヌがケンカするかどうかではなく、相手に危害を加えるかどうかです。

子イヌの頃に他の子イヌと遊びでケンカをしたり咬みついたりを十分にさせていれば、咬む力をきちんと抑制できるようになります。そうすれば、成犬になってケンカに巻き込まれても、相手にケガをさせずに争いを解決できるようになるのです。

咬む力を抑制することを安全に学べるのは、子イヌの時期だけです。子イヌのしつけ教室に入会するのは、この咬みつきの抑制を身につけさせることが最大の目的なのです。